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Contents
【今日の論文】"Survival Rate of Teeth with a C-shaped Canal after Intentional Replantation: A Study of 41 Cases for up to 11 Years" Youngjune Jangらの著 JOE — Volume 42, Number 9, September 2016
今日の論文は、韓国・ソウルの延世大学歯学部保存歯科学科の Jang教授らの論文です。韓国は移植や再植に関する論文が多いですね。
日本人は下顎の第二大臼歯に樋状根が高い確率で存在することがわかっており、その複雑な形態から適切な根管治療を行うことが非常に難しいとされています。

樋状根、根管の発生頻度:International Endodontic Journal, Volume: 47, Issue: 11, Pages: 1012-1033, First published: 31 January 2014より引用
今回の例のように、そのエンド治療が奏功しなかった場合、その歯は抜歯となってしまうのでしょうか?
歯根端切除という方法もありますが、下顎の第二大臼歯までいくと、頬側骨が非常に厚く、アクセスも悪くなるため、非現実的であることが多いです。
そういった場合に有効と考えられるのがこの”意図的再植”になります。
その成功率はいかなるものか、論文を通してみていこうと思います。
【サンプル概要】下顎第二大臼歯だけじゃない
下顎第二大臼歯35本、上顎第二大臼歯4本、上顎側切歯1本、下顎第一小臼歯1本の計41本のC型根管を意図的に再植した歯を対象とし、手術記録表や電子カルテ、マニュアルカルテをレビューした。
同論文より引用

対象となる歯は全て通常の根管治療を終了しており、それでもなお症状が持続している歯牙になります。
意図的再植ではなく、歯根端切除で対応できるような状況や歯根破折と診断された歯牙は適応外となります。

対象となった歯牙は術前の3、4日前に歯間離開用のゴムを挿入して、ジェントルな抜歯ができるようにしています。
【術式】根切と逆根管充填
当該歯を抜歯した後は、フィッシャーバーで根尖から2〜3mmをカットし、そこからさらにカーバイドバーで3mmの逆根管形成を行います。
これらの外科処置の際はマイクロスコープを使用していること、鉗子などで歯根膜にダメージを与えないように注意深く操作した。ということが記載されています。
今回は逆根管充填材として、Pro root MTA、Endocem、Super EBAの三種類が用いられています。
保存液としてHank’s balanced salt solution (HBSS)と生理食塩水が用いられています。

復位させて安定が得られない場合はレジンを用いて強固な固定をしています。
【成功の基準】
1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、そしてその後は1年ごとの経過観察が行われました。
わずかな歯の移動(水平的動揺が2mm未満)、限局的な歯根吸収、歯のアンキローシスは、治療の失敗とはならず、”成功”の基準となります。
X線写真の結果、根尖病変の大きさが増大した場合や、歯槽骨の欠損や炎症性歯根吸収による歯の過度の移動(垂直または水平方向の変位が2mm以上)や持続的な咀嚼痛など、正常な咀嚼機能を阻害する兆候・症状が見られた場合を”失敗”の基準としました。
【結果】意外なものを使ってしまうとダメな結果に!

同論文より作図
全体的な結果は4年目で83.4%、11年目で73.0%という結果になりました。

成功率に影響を与えた因子は口腔外の露出時間と、逆根管充填材の種類でした。
具体的には前者では15分以上か否か、後者ではPro rootが悪い結果となり、それ以外の材料の方がいい結果となりました。

移植の際に成功率に影響を及ぼすとされた年齢は今回の結果においては影響がありませんでした。
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【インプラント前の最終手段】”移植”の成功率を上げるために知っておくべきこと。
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【なんでそれを使っちゃいけないのか】歯根端切除との大きな違いとジレンマ
根管治療領域においては万能と思われてきたPro rootですが、今回の意図的再植に関しては、有意差を持って悪い結果となりました。
ダメな理由として考察に上がっているのは、その材料の特性である硬化時間の長さです。
歯根端切除の場合、歯根切除をした後に十分な乾燥をし、骨窩洞内も止血をした上でMTAの充填を行います。
しかし、意図的再植の場合は、復位させる窩洞内を完全に止血することは難しく、窩洞内やフラップからの出血は全て最も低位にある根尖部に溜まっていきます。
血液とのコンタミネーションを起こすことで硬化阻害や、機械的性質の劣化を起こすという論文もあるようです。
口腔外に晒される時間を極力短くしないといけないということからも、充填後完全に硬化する時間を確保することは避けなくてはなりません。
生体にとって優しい材料を使いたいが、それを確実に応用しようとすると、露出時間が長くなる。というジレンマが生じることになります。

今回の結果から鑑みると、処置の成功のためには根尖部の確実な封鎖が求められる。ということが考察できます。
今回の論文のようにEndocem、Super EBAを使用するのも一つだと思いますし、硬化時間が比較的短いMTAを使用するのもいいと思いますが、それでも術中の完全硬化を期待するのは難しいでしょう。
よって自分の中でも何がベストなのかはわからない状態です。申し訳ございません。
【早く、早く!スピード勝負】回転切削器具を使う意味
今回の論文では歯根端切除、逆根管形成ともに回転切削器具を用いています。
逆根管充填においては超音波器具を用いて根管形成を行うことが多いと思いますが、今回はカーバイドバーで行っています。
これは単純に口腔外露出時間を短くするためで、超音波器具を用いてチマチマやってたら歯根膜が死んじまうよ!ってことです。
必要な窩洞を早く作り、早く元との位置に復位させてあげる。ということを達成するための納得の手技です。
【実際の症例】冒頭の症例の結果やいかに!




愛護的な抜歯をし、根切、窩洞形成をし、ペーストタイプのBCシーラーを使用しました。

術前と術後2yの経過

【まとめ】術前の十分な診査と患者さん説明を!
今回自分が手掛けた症例においても現在までのところ良好な経過を追えています。
このケースはブリッジの支台歯になっていることからも、より注意深くその経過を追っていく必要はありますが、自分の歯を残したいという患者さんの第一の希望を叶えることができました。
いずれインプラントが必要になる可能性も伝えていますが、仮に数年であっても患者さんにとってライフステージのより後期にインプラントをするという意味でも非常に価値のある治療であったと思っています。
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【予防が大事】インプラントの時期をいかに遅らせることができるか。
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今回のケースではうまくいっていますが、樋状根の場合C-shapeのC←の部分が非常に陥凹していたりするので、感染が大きく広がっていると、その部分の深いところにバイオフィルムを形成していることがあり、口腔外に出したとしても感染の除去ができず、期待する効果を得られない場合などがあります。
こればかりはやってみないとわからない部分でもあるので、やはり術前にしっかりとした患者さん説明が必要となるでしょう。
ここまで根管治療を頑張ってもダメか。と諦める前に、もう一度その状態を正確に診査し、その可能性があると判断できれば非常に有効な治療であると、個人的には思っています。
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。
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