注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
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【抜歯済みの上顎では結構頻度が多い】上顎挙上術について
インプラントの適応にあたっては、様々な制限があるのも事実で、こと上顎にあたっては上顎洞挙上が必要なケースが多々あります。
ショートインプラントの応用もありますが、上顎洞の高度な含気化や歯槽骨の吸収によって、それすら適応できない場合もあります。
そういった場合に必要とされる上顎洞挙上術に関して、どういう判断のもとで術式決定を行なっていけばいいのかをみていきます。
【上顎洞挙上術】代表的な二つの方法
そもそも上顎洞挙上術には大きく分けて2つの方法があります。
その2つをまず理解していきましょう。
【大幅な挙上】ラテラルアプローチ
ラテラル・ウィンドウ・テクニックを用いた上顎洞挙上術は、1970年代半ばにTatumによって開発されました。
挙上部位の側面が露出するように全層弁でフラップを開け、回転切削器具や、ピエゾを用いてウィンドウ形成をしていきます。
その後洞底部から上顎洞粘膜を剥離、挙上する方法です。
トラップドア法ではシュナイダー膜に張り付いている骨をそのまま上顎洞内に押し込みますが、幾分か操作性が悪くなるので、個人的には外してしまった方が楽かと思います。
フィクスチャーに十分な初期固定が得られるようであれば、サイナス時の同時埋入をするし、それが得られない場合は骨が形成されるまで待ってから埋入を行います。
【盲目的操作だけどめっちゃMI】オステオトームテクニック
オステオトームを用いた歯槽頂からの術式は1994年にSummersらによって紹介されました。
インプラント埋入窩の歯槽堤を貫通して、上顎洞底を挙上する方法です。オリジナルのSummersテクニックでは専用のオステオトームを用いていますが、現在ではバルーンや、水圧を利用して上顎洞の挙上を行う方法が紹介されています。
シュナイダー膜を直視することが難しく、盲目的な操作になるため、術者の技術や経験にかなり依存する方法ですが、外科的侵襲が少なく、治療期間の短縮にもつながる方法になります。
【どっちを選択する?】術式選択のためのディシジョンツリー
上述の通り、基本的にオステオトームを使用した方法の方が、患者さんの負担は少ないし、治療期間の短縮にもつながるので、オステオトームを使えるのであれば、そちらを優先して使って行った方がいいと思います。
ではどこからラテラルアプローチを選択すればいいのか。その判断基準を見ていきます。
【今日の論文】"Maxillary Sinus Floor Augmentation: a Review of Selected Treatment Modalities" Thomas Starch-Jensen らの著 J Oral Maxillofac Res 2017 (Jul-Sep) | vol. 8 | No 3 | e3 | p.1
デンマークのオールボー大学のThomas先生らによるレビュー論文になります。
この論文においては、ラテラルアプローチの二種(骨補填材の有無)、オステオトームを使った方法の三種類の外科術式、臨床成績、レントゲン的、組織形態学的評価、合併症のそれぞれが紹介されています。
一部長期的な経過を追えていないものもありますが、臨床的にどの手法が優れているとか、劣っているということはなく、どれも高い臨床成績を出しています。
また、話はそれますが、ラテラルアプローチに関しては骨補填材の有無によって形成される骨量の差はありませんでした。(下記参考論文)
その一方で、オステオトームに関しては骨補填材を使った方が優位に骨造成量が多くなるということがわかっています。(下記参考論文)
【既存骨の量に注目】側方からいくか、垂直的にいくかの判断基準

同論文より作図
この5mmという目安に関しては、以下の論文に示されているもので、既存骨が5mmあればインプラントの良好な予後が期待できるというところから来ています。
さらに、ショートインプラント(6mm以下)をオステオトームによる上顎洞挙上と同時に埋入すると、インプラントの生存率が著しく低下するという論文の報告も出ています。
これらのことから、著者らは既存骨量の5mmという厚さを判断基準の一番大事な部分に持ってきてきます。



【まとめと合併症について】
上顎洞挙上術に関して、様々なテクニックが紹介されていますが、どれも確実な処置を行うことができれば、成功率や合併症の発症も低く抑えることができます。
どのテクニックにおいても一番多い合併症はシュナイダー膜の穿孔になりますが、一般的にこれがインプラントの予後に影響を及ぼすということはありません。

穿孔時のリカバリー方法などはまたいつか論文で扱えればと思います。
上顎洞挙上術もまた術者のテクニックにかなり依存するものなので、その適応においては十分な経験と、準備が必要になってきます。
しかし、これができることでインプラントの適応範囲も広くすることができるので、いつかはぜひマスターしたいテクニックですね。

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