注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
なお、全ての臨床写真は患者様の掲載許可をいただいた上で掲載を行なっております。
✔︎ 本記事の信頼性



例として出しているだけなので、詳細は割愛します。


Contents
【インプラントが全てじゃない】ブリッジが第一選択となる状況を考える。
【患者の希望を第一に】費用はいくらまで?治療期間は取れる?
全ての治療において言えることですが、まず患者さんの要求を叶えることが必須になってきます。
しかし実際には様々な制約があるのも事実で、その希望の実現のためには費用や治療期間、場合によっては外科処置の許容といった部分をクリアしないとどんな治療も行うことはできません。
治療方針を決めていく際にはそういった細かい部分まで患者さんと話し合いを進め、十分な理解と同意を得た上で治療を進めていく必要があります。
最後に現時点での自分の考えを提示しているので、皆さんも自分ならどうするか。ということを考えながら読み進めていただくといいかなと思います。
【今日の論文】"Single-Tooth Replacement: Is a 3-Unit Fixed Partial Denture Still an Option? A 20-Year Retrospective Study" Hein De Backerらの論文 The International Journal of Prosthodontics Volume 19, Number 6, 2006
今回の論文はベルギーのゲント大学のDr.Hein De Backerらによる2006年の論文です。
1974年から1992年の間に装着された98人の134本のブリッジが含まれています。平均観察期間は11.6年(2.8〜24.7年)になります。
【サンプルまとめ】概要はこんな感じ。

同論文より抽出
このサンプルを見て思うのは、どうせ前歯部のサンプル数が少ないなら、臼歯部に特化した研究にして欲しかったなということ。
それから支台歯の状態の中の特に失活歯×失活歯のサンプルがもう少し欲しいなということ。
さらに失活歯に関しては口腔内で直接レジンなどでコアを立てるのではなく、全てメタルコアです。(メタルコアが悪いってことじゃないですよ。)
一部の失活歯ではフェルールが2mm取れないケースがあったという記載があったりして、なんかばらつきが多そうだなーという感想を持ちました。
印象はシリコン、合着はジンクセメント、ブリッジは全てPFMです。
失敗の定義は”生物学的”と”技術的/患者関連” の2つに分けられ、前者はカリエス、ペリオ、エンドの問題や、支台歯の破折などが含まれ、後者は脱離、フレームワークの破折などが含まれます。
【生活歯は良さそう。上下顎で差があるのか😶】結果

同論文より引用、改変
結果は上図のようになり、性差や対合の状態、一人あたりのブリッジ数に基づく分析はありません。
”無”、”有”は有意差の有無を表しています。
上図には含めていませんが、この論文における全体的な生存率は、5y:95.1%、10y:88.8%、15y:77.8%、20y:73.1%となってます。
全体的に見て失活歯よりも生活歯の方が成績が良いのは当然として、上下顎の比較においては下顎の方が生存率が優位に高い結果となりました。
失活歯が支台歯に含まれる場合も、生活歯のみの場合も、下顎が優位に良い成績となっています。
その理由が気になるところですが、ここに関する考察は一切ありませんでした。
支台歯の状態に関しては、上述の通りコンディションの悪い(フェルールの取れない)失活歯もサンプル内に含まれていますし、一方が生活歯、一方が失活歯の場合と、両方が失活歯の場合の全てが一緒くたにして(RCT)として成績が出されているので、解釈に注意が必要ですが、生活歯に関しては良い成績であるということは言えると思います。
繰り返しになりますが、失活歯の場合の両方が失活の場合、片方が失活の場合の2つを分けて考察が欲しかったところです。
【ブリッジにするか、インプラントにするか】まとめ
【現時点での僕の答え】賛否両論あると思います😓
費用や治療期間の問題をクリアできた前提です。
このケース場合ではブリッジでもいいのではないかと、個人的には考えます。(判断材料が少ないのは置いておいて)
両隣在は生活歯であり、下顎に位置していますから、今回の論文の結果から、その予後がインプラントと比較して有意に劣るとは言えないでしょう。
支台歯となる47、45共にインレー形成をされており、さらなる歯質の犠牲を伴うことはマイナスですが、インプラント治療と比較して治療期間が短縮できること、大規模な外科処置を回避できることは大きなメリットと言えるでしょう。
今回のケースでインプラントの選択をする場合は、患者さんのペリオに問題がなく、カリエスリスクがかなり高い場合か、患者さん自身が支台歯形成のための歯質の喪失を許容できない場合でしょうか。
もし仮に、両隣在歯が失活歯かつ、歯質の残存量が少ない場合や、逆に両隣在歯が全くのインタクトな状態なのであれば、インプラントをおすすめすることになると思います。
また下顎の7番は十分なクリアランスを確保しようと思うと、支台歯の高径が確保できず、クラウンレングスニングが必要になってくるケースも多々あるかと思います。この辺の条件も判断基準に入ってくるでしょうか。。。
カリエスリスクやペリオのリスク診断、咬合などによってもどちらを選択すべきかっていうのは分かれてくるでしょう。
皆さんの判断はいかがでしたでしょうか?
【実際の流れ】シミュレーション
右下の6は抜歯の適応になりますが、今回の場合幸いにしてまだ抜歯は行われていないので、歯槽堤の保存を図ると思います。
インプラントの場合は、これまた賛否両論ありますが、オープンバリアメンブレンテクニックなどを用います。単に抜歯のみでもいいかもしれませんが、両隣在歯の歯槽骨頂は高い位置でキープできていますので、このケースではチャレンジする価値があるかなと思います。
ブリッジの場合は抜歯の前に歯冠のみを落とし、両隣在歯の形成を行ってブリッジのプロビジョナルの作成を先に行います。
その後に抜歯を行い、十分な搔爬の後、抜歯窩に骨補填材を詰め、その上にコラーゲンスポンジなどを入れ、プロビジョナルのポンティック部分で抑える。ということをするかと思います。
【まとめ】
様々な選択があり、それぞれの補綴方法の予後を理解した上で、患者さんの様々な条件を加味し適応を決めていくことになると思います。
今回の論文ではブリッジの予後を見ていきましたが、それぞれの補綴方法の生存率を知っておくことは患者さん説明の上でも非常に重要なことかと思います。
患者さんの要求に応え、快適な生活を送ってもらうためにできうる限りの知識の整理と、技術の向上に努めたいものです。
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。
こんな論文あるよ!とか、自分ならこうするなど、皆さんのお考えをお聞かせいただけると幸いです。
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