僕はこの五月から、実家のある岩手県花巻市の成田歯科医院というところで働きます。
歯科医師になって9年間勤務医生活を送ってきました。
歯科医師をはじめとした歯科医療従事者は、様々なことを考えて勤務先を決めると思いますが、自身の経験が誰かの参考になればと思います。
【これまでの経歴】自分が勤めていた歯科医院
僕は2014年に日本大学歯学部を卒業し、そのまま同大学にて一年間研修医をしました。
秋頃まで次に勤めるところはあまり考えておらず、勤務先については歯科医師である父のツテなどは使わずに決めようと思ってました。
かつて、父が参加する勉強会に少しだけついて行き、派手に治療をしている先生ってなんかギラギラしすぎてて嫌だなと思ったのをどこかで引きずっており、
そんな時に出会ったのが熊谷崇先生でした。
【一つ目の勤務先】山形市・佐々木歯科医院
ご存知の方も多いと思いますが、熊谷先生はNHKのプロフェッショナル 仕事の流儀、テレ東のカンブリア宮殿の両番組に特集されたことのある唯一の歯科医師です。
疾患が起こる前に予防をする。という考えはその当時の僕にとってものすごく新鮮で、同学の先輩でもあったため、勤務させてもらえないかとお願いしました。
残念ながら熊谷先生の日吉歯科診療所では勤務医を募集しておらず、就職は叶いませんでしたが、
オーラルフィジシャンコースを一緒に運営されている佐々木英夫先生を紹介していただき、山形市の佐々木歯科医院に勤務することになりました。
徹底的な資料採得とデータ収集に基づく患者教育など、あくまで予防の主体は患者さんであり、その実現のために何ができるかということを考えさせられました。
佐々木院長の技術、お人柄、スタッフマネージメントなど本当に多くのことを学ばせていただきました。
【二つ目の勤務先】金沢市・なぎさ歯科クリニック
佐々木歯科医院に勤務して3年目を迎えた頃、大きな悩みを抱えることになります。
患者さんの意識が上がり、より良い治療や、大掛かりな処置をしても噛めるようになりたい。
という患者さんの要望に対して、自分が何も提供することができなかったのです。
外科的な処置などは紹介先の医院で診てもらうシステムになっていたので、最後まで患者さんを診ることができない、その能力もないことに不甲斐なさを感じました。
そこで次の勤務先として選んだのが、石川県金沢市のなぎさ歯科クリニックでした。
院長の船登彰芳先生は5-D Japanという勉強会の創設者で、歯周病や、インプラント治療をメインに行っています。
予防を専門としていた佐々木歯科医院からの転職でしたので、一からのスタートとなり、辛い日々を送りましたが、ここで僕の臨床は大きく変わっていくこととなります。
【メリット】数多くのことを学ばせていただきました。
※一件目に勤めた佐々木歯科医院も大変有名ですが、今回なぎさ歯科クリニックを卒業するにあたっての記事となるので、そこでの体験談をベースに書いていきます。
また、なぎさ歯科クリニックにおいての話になるので、他の医院で同じようなことが言えるとは限りませんので、ご注意ください。
【一番の】学ぶことと、実践するには大きな壁がある。
メリットとして一番先に挙げられるのは、やはり、高度な技術を学べ、実践できるということでしょう。
なぜ有名かということを考えれば当たり前のことで、それだけ優れた技術や知識を持っているからです。
書籍や勉強会で、さまざまな知識を得ることは可能ですが、そこには出てこないもっと深い情報、裏話も知ることができます。
そして最も重要であると考えるのが実践とそのフィードバックです。
勉強会で習ってきても、実践するには設備や器具などのハードの問題もあるし、外科的な処置の場合は不慮の事態に遭遇することもあります。
その際に適切な対応を取れるかどうかは非常に重要なことで、その点、ここでは院長にステップごとに確認してもらい、
場合によっては修正をしてもらいながら、処置を確実に進めることができました。
そしてその過程を実際に見てもらっているので、処置後すぐにフィードバックを貰え、次に生かすことができたと思います。
【質とスピードはゆっくり伸ばしていくもの】お金に縛られずにチャレンジ
今後卒業するにあたって、きちんと経営を回していかなくてはなりません。
金銭的なことを考えると、回転率をあげればその分利益は上がります。
しかし短い時間で高いクオリティを出すのは難しいことで、最初のうちは時間がかかったとしてもそれを求めるべきかと思います。
その点で十分なチェアタイムを確保して診療に臨めましたし、回数も自分の納得がいくまでやってもいいという環境を提供していただきました。
経営と臨床を両立させていく中で、金銭的なところがショートするようでは臨床での上積みもできません。
勤務医というある種経営を考えなくていいの立ち位置の中で技術、経験を積ませていただけたのは本当に恵まれた環境でした。
一定の質が出せるようになったら、あとはいかに効率よく進めることができるかになってきます。
質の担保ができていないのに効率を求めるのは順番が違うと思います。
【人との繋がり】多くの著名な先生との繋がりが増えました。
これは山形でもそうでしたが、院長が著名な先生であるため、そこに見学の先生がいらっしゃたり、学会などで有名な先生に紹介していただける機会が多くありました。
そういった先生方と知り合えることでまた新たな刺激をいただきましたし、色んなアドバイスもいただきました。
どの業種でもそうかと思いますが、人との出会いは色んなところでつながり、いい影響を与えてくれます。
自分の行動力次第でそういった繋がりは得られるものなのかもしれないですが、こういう出会いを無条件で与えてもらえるというのは一つのメリットかと思います。
【デメリット】安い、厳しい、辛い
もちろん良い面ばかりではなく、悪い面も実際には存在します。その全てをここで暴露します。
【給料が安い】同期との比較が辛かった。
一つ目のデメリットとして、一般的な勤務医と比較して、給料は圧倒的に安い傾向にあると思います。
これは実際に他の先生方ともお話しさせていただきましたが、有名な先生であればあるほど、そのような傾向はあるみたいです。
でもこれは考えれば当然のことで、僕の医院では保険診療であってもあり得ないくらいの診療時間を確保していただきました。
診療報酬に対し、採算に合わない仕事をしている以上、これは仕方のないことです。
先ほども述べた通り、医療を提供する上で質を担保しなくてはならないし、それができないうちは時間をかけ、身銭を切ってでもその追求をすべきかと思います。
しかし、正直なところ、特に若いうちはどれだけ早くいい給料がもらえるかというのが仲間内でもよく出る話で、その劣等感に負けそうになることもありました。
【プレッシャーとの戦い】厳しい評価をされる
院長自身がものすごい質の高い治療をしている以上、その医院においては僕らも同様に質の高い医療が求められます。
若手の勤務医が治療するからと言って、適当な治療をすることは許されません。
その分入りたての頃は既存のスタッフさんたちからの目線は厳しいものがありましたし、
オペの時や、全顎的に治療が必要な患者さんの途中経過を院長に報告する時などは、本当にプレッシャーが凄かったです。
自分なんかは器用な方ではないのでよく怒られていましたし、そう言ったことが続くと、どうしても下向きになってしまうこともありました。
怒られることが怖くてなかなか声をかけられないって言うこともあったくらいです。
ただ怒られているうちが華というのがあるように、成長するためにはそういったものは乗り越えなくてはいけない壁で、最終的に逃げずにここまで来れてよかったと思います。
【まとめ】有名な歯科医院に勤務させてもらえてよかった!
卒業した今思うことは、給料が安かったとしてもしっかりと時間をとって患者さんを向き合える機会を与えていただいたこと、
限られた時間の中で、プレッシャーをかけていかに成長させられるかを考えて指導していただいたこと、
厳しくも、本当に質の高い医療を提供するために必要な知識、技術、向き合い方を教えていただいたこと。
これらはこれからの歯科医師人生を歩む上で本当に大きな財産になったと思います。
何を大事にするかは人によって異なるものですが、山形も金沢も、僕は色んな意味で素晴らしく厳しい医院の中で成長させてもらえて本当に幸運でした。
多くの歯科医師は勤務医からその歯科医師人生をスタートさせることかと思いますが、その選択に悩まれている先生の一助になれれば幸いです。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。