注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
なお、全ての臨床写真は患者様の掲載許可をいただいた上で掲載を行なっております。
【インプラントの前に考えよう。】移植はめちゃくちゃ有用!!
前回の記事では、インプラントを入れるのは、なるべくライフステージの後期にした方がいい。と言うことを述べました。
しかし、不幸にして歯を失ってしまった場合には、年齢に関係なく、その部分は何かしらの手法で補ってあげないといけません。
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【予防が大事】インプラントの時期をいかに遅らせることができるか。
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そんな状況で非常に有用なのが移植です。
もちろんドナー歯が存在しないといけないし、サイズの関係など考慮すべき事項があるのは事実です。
しかし、それらがクリアできた場合、期間、費用、外科的侵襲を考えてもインプラントよりそのハードルがかなり低いと考えられます。
患者さん利益が高いのはもう明らかです。
【移植】実際の症例
患者さんは二十代後半。左上の奥歯から変な匂いがすると言うことで来院されました。
26には、不適合修復物や根尖病変も認められ、辺縁部の透過性も認められることから、二次カリエスも併発していそうです。
最悪の場合、抜歯になる可能性も伝え、クラウン(被せ物)・コア(土台)の除去に入りました。
予想していたよりも深いところまでカリエスが進行していました。
切除による対応も含めて検討しましたが、患者さんと相談した結果、移植で進めていくことになりました。
今回はかなり適合が良かったので、シルクの縫合糸による固定のみで終わらせています。
基本的にリジットな固定は歯根吸収に繋がる可能性が指摘されているので、よっぽど動く場合以外は比較的太い糸で固定します。
移植後2w以内での根管治療が推奨されますが、今回は1wで開始し、即日で根管充填を行っています。
その後、自然挺出するのを2m程度待機したところで下顎との咬合が確認できたので、最終修復の決定を行います。
残存歯質量、近遠心的な辺縁隆線の連続性、咬合などの観点から、多量の切削を伴う処置は必要ないと判断し、コンポジットレジンでの修復を選択しました。
髄角が張っていなかった為、アクセスのための窩洞は最小限で済んだ事、近心に認められたカリエスがそこまで大きくなかったことが幸いしました。
まだ術後一年半しか経過していませんので、注意深く経過を追っていく必要がありますが、今のところ特に問題はありません。
冒頭でも述べた通りなのですが、患者さんにとっては、治療期間、外科的侵襲、費用の面で比較してもインプラントを選択する場合よりメリットが大きい治療だったと思います。
歯根膜感覚を維持できると言う点も大きなメリットです。
成功の可能性を最大化するために
非常に有益な治療であることは上記で説明した通りなのですが、その成功率を上げるためには考慮しなくてはならないことが数多く存在します。
その要素について見ていきます。
【今日の論文】Prognostic Factors for Clinical Outcomes in Autotransplantation of Teeth with Complete Root Formation: Survival Analysis for up to 12 Years Youngjune Jangらの著 JOE — Volume 42, Number 2, February 2016
韓国の大学の先生みたいなんですけど、96人の105本の移植歯の成功率を、様々な要素ごとに分けて分析しています。
【びっくりしたこと】移植前?移植後? 根管治療の開始時期
この論文において非常に驚いたのが、ドナー歯が萌出している場合はそのほとんどを術前に根管治療していることです。
さらに埋伏歯の場合は、歯根端切除を行っています。その判断基準までは記載がありませんでしたが。
普通抜歯で抜いたのが105本中95本で、そのうちのほとんどを術前に根管治療したとの記載。
ドナー歯105本のうち、91本が智歯であること。。。
詳細な数字は出せないけど、サンプルのうちほとんどが智歯で、そのほとんどを術前に根治しています。
・・・絶対やりたくないし、うまくやれる自信もありません。
根管治療の失敗が移植の失敗につながったと言う記載はないし、インタクトな歯牙の場合は細菌感染はないので、根管治療の成績は悪くはないでしょうが、、、んー。術後に普通にやればいいですよね。
【若い人、上顎のドナー歯、口腔外露出時間を短くする】この論文の結果
割愛しますが、様々な要素でその生存率の差を見たときに、優位な差を認めたのは45歳以下か、ドナー歯が上顎、口腔外の露出時間が15分以内ということでした。
生存率について、簡潔に述べるとオッズ比では、45歳以下ではそれ以上の人と比べて4.05倍、ドナー歯が上顎の場合、下顎だった場合と比較して3.5倍、口腔外露出時間が15分以下だった場合、それ以上の場合と比較して3.26倍という結果になりました。
他にもアンキローシスに関する要素、病的歯根吸収に関する要素などが記載されていますので、気になる方は是非目を通してください。
【絶対に移植を成功させるために】個人的にやっていること
この論文には本当にいろいろなことが書いてあるので、そう言った要素を確実にクリアすることが非常に重要かと思います。
当然ながら成功の可能性を少しでも上げたいので、自分がルーティンとしてやっていることをお伝えして終わりたいと思います。
①術前のマウスピースの作成
移植直後は当然咬合させない所で位置付けをし、接触がないかを確認すると思いますが、夜寝ている時など、予測不可能な顎運動をしている可能性もあります。
その動きで接触したりするのが怖いので、術前に5-5までの装着感の比較的軽度なタイプのマウスピースを作らせてもらってます。
大抵は大臼歯部の移植になると思うので、これで問題ないと思います。
術後2w程度は必ず装着してもらい、日中も可能なのであればつけてもらうようお願いしています。
②ドナー歯の術前矯正
術前矯正っていうと大袈裟なんですけど、言い方忘れたので、こう書いてます。
いかにドナー歯を抜歯しやすい状況を作っておくかでその成功率に影響が出ると考えています。
具体的にはセパレーターのゴムだったり、CRに使うウエッジを1w前から挿したり、咬合している場合はCRを少し盛って外傷性咬合を作ったりもしてます。
わざわざブラケットなどをつけてやる必要はないと思いますが、容易に準備ができるので、やれることはやっておくべきだと思います。
③エムドゲイン/リグロスの応用
エムドゲインの応用が有効であるとする論文もあるので、これらの応用も有効であると考えられます。
費用の問題もあるので使うことに同意していただける方には応用してもいいんじゃないかと思います。
おしまい。今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。