注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
なお、全ての臨床写真は患者様の掲載許可をいただいた上で掲載を行なっております。
✔︎ 本記事の信頼性
症例1:2度の根分岐部病変の再生療法
歯を支える骨が失われた場合、それを取り戻す再生療法という手段があります。
まずは症例から。
患者さんは30代前半。
痛くて何も食べられない。とのことで来院されました。26に腫脹が認められます。
動揺が認められましたので、ワイヤーでの固定と、ポケット内洗浄、咬合調整を行いました。
1w後、SPのため来院してもらうと、腫脹は消え、わずかに根面が見えているような状態でした。
改めてポケットの診査を行うと、2度の分岐部病変が認められました。
電気診には正常な反応が認められました。
骨欠損形態を確認するために、患者さんの同意を得てCTの撮影を行いました。
頬側骨の喪失と、2度の分岐部病変が認められます。
計測値を載せてないのですが、CT上で約6mmの頬舌方向の深さを伴っています。
Bowersらの論文(PMID: 14584858)では病変の水平的な深さと再生療法の完全閉鎖の関係について言及しており、
5mm以上であると53%の完全閉鎖
4mm以下だと90%の完全閉鎖
と結論づけています。
今回は6mm程度あるため、完全閉鎖に至らない可能性があることも説明した上で再生療法に臨みました。
【オペ画像】狭い根分岐部はデブライドメントが大変。
病変の一歯離したところの近心部に縦切開を行い、パーシャルであけていきます。
病変と骨膜部分を分離し、分岐部の肉芽組織を除去していきます。
分岐部の開口部がかなり狭いので、デブライドメントには非常に苦労しました。
手用スケーラー、超音波スケーラー、チタンブラシ、レーザーなどをあらゆるものを駆使し、気炎物質の除去に努めました。
サイトランスとリグロスを併用します。
頬側のバイオタイプが薄かったので、CTGを併用します。
術前の歯肉の状態に合わせて、CTGを併用することで初期閉鎖が起こりやすくなると言われています。
ポジショニングスーチャーを行い、減張が十分に得られていることを確認してカバーフラップを縫合します。
再生療法後の再評価は半年程度はしないようにし、十分な待機時間を経たのちに分岐部の改善が確認できました。
以下は術前と術後半年の写真になりますが、頬側の歯肉の厚みが増加していることがわかると思います。
頬側の厚みが増すことで、術後の安定が期待できます。
血流の確保が困難であったり、デブライドメントが困難であることなどの問題から、難易度が高いとされる分岐部病変ですが、2度程度の分岐部病変であれば、予知性の高い結果が得られると考えられます。
また、仮に1度の分岐部病変が残ってしまった場合であっても、その歯の喪失リスクを軽減することができます。
以下にそれを示す論文を提示していきます。
【11年の追跡調査】歯周病治療がなされていない歯の予後
【今日の論文】The effect of furcation involvement on tooth loss in a population without regular periodontal therapy Luigi Nibali, Anna Krajewski, Nikos Donos, Henry Völzke, Christiane Pink, Thomas Kocher, Birte Holtfreter, J Clin Periodontol . 2017 Aug;44(8):813-821.
ロンドンのクイーンメアリー大学のLuigi Nibaliという方の論文です。
1997年から2001年までにデータが収集され、その後2012年までの間に2回のフォローアップが行われています。
6262人に参加を呼びかけ、1回目の検査に応じてくれたのが4308人、その11年後に検査に応じてくれたのが2333人と、かなりの人数、期間をかけた大規模研究です。
最終的には1897人の3267本の大臼歯が評価に含まれています。
参加者は定期的な歯周治療を受けていないものの、そのうちの28%が何らかの“gum treatment"受けたとし、全く関与がなかったわけではないので解釈に注意が必要です。
結果は以下の通り。
11年の経過観察で、FI( furcation involvement:根分岐部病変)のない大臼歯:5.6%、I度FI:12.7%、II度FI:34.0%、III度F:55.6%の喪失率となり、
ベースライン時に根分岐部病変がない歯と比較して、分岐部病変が1度の場合は2倍、2度は7倍、3度は10倍の喪失リスクがあるという結果になりました。
そして論文の著者らは
FIを持たない臼歯(ほとんどが歯周炎のない患者に属している)は歯周治療を受けているかどうかではの喪失率に影響はなかったが、ベースラインでFIを持つ臼歯には歯周病治療の有無が歯の喪失リスクに強い影響力をもたらす。
The effect of furcation involvement on tooth loss in a population without regular periodontal therapy Luigi Nibali, Anna Krajewski, Nikos Donos, Henry Völzke, Christiane Pink, Thomas Kocher, Birte Holtfreter, J Clin Periodontol . 2017 Aug;44(8):813-821. より引用
と結論づけました。
よって、この論文から読み取れることは、
定期的な歯周病治療を受けた方がいいということと、
再生療法によって、根分岐部病変のステージを低くすることで歯の長期的な維持が可能になる
ということです。
なので先ほども述べた通り、再生療法によって完全閉鎖を得られなかったとしても、
ステージを低いところに持っていければ歯の延命はできるということです。
インプラントなどの治療はライフステージの後半に持ってくることがいかに重要かということは過去の記事でも挙げている通りです。
【予防が大事】インプラントの時期をいかに遅らせることができるか。
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よって再生療法は非常に有効な手段になり得ると考えられます。
技術的な要素が大きいと言われる手術になりますが、患者さんの歯の保存を考える際に持っておきたい技術であると思います。
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。