注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
なお、全ての臨床写真は患者様の掲載許可をいただいた上で掲載を行なっております。
✔︎ 本記事の信頼性
【ついにセット】まずはフレームトライ!そして仮着。
前回の印象の後、フレームトライをし、咬合や隣接コンタクトの調整を行います。
さらに色調の確認もここで行い、必要に応じて再度シェードテイキングを行います。
今回は必要なかったんですが、ポンティック部の形態に不足がある様なら、パターンレジンなどを用いて記録し、基底面の調整量を技工士さんに伝達します。

最終補綴物
できた補綴物がこちら。無駄に気合入ってたのでこういう写真も撮りました笑
基本的に前歯部の症例は仮着セメントで1~2週間ほど経過を追います。
院外で色調を確認してもらうってことだったり、脱離だったり、除去後のウォッシュアウトとかを見て、問題がないかを確認します。
全てがオッケーだった場合に初めて合着用のセメントに進みます。
セメントの選択について
今回は特に前歯部に限った話になりますけど、皆さんはどういった基準でセメントを選択されているでしょうか?
ジルコニアフレームなので、ジルコニアとの合着(接着?)を考慮して、かつてはMDP含有のパナビアV5を使うことが多かったです。
結論から言うと、今は白水から出ているセラミアを第一選択にしています。
下記に論文で紹介しますが、一般的にジルコニアはメタルフレームのものよりもマージンギャップが大きく出る傾向にあります。
また本ケースの様に歯肉縁下に深く形成をしている場合は、防湿が難しいのでレジン系はその重合に少し不安が残ります。
ジルコニアは光透過性が悪いので化学重合もしくはデュアルキュアを用いることが必須になりますが、デュアルキュアの場合でも光が届かない場合に重合反応が十分に起こらないとする研究もあります。
それらを考慮した場合に条件を満たすのが上記に紹介したセラミアになります。
マージンギャップを埋めてくれるのがレジンでないと言う点もすごく重要だと思っています。
セラミアの硬化体はガラス系なので生体親和性も期待できますし、フローもよく、浮き上がりのリスクも極めて少ないです。
4-META系のスーパーボンドもこれらの条件に当てはまりますし、術後のマージンの安定に寄与するとされるラミニン-5やインテグリンなどの発現がスーパーボンド上でも確認されているので、長期的な歯肉の安定に有効であることが言えると思います。
一方でその操作性の悪さがネックで、十分な配慮がないと補綴物の浮き上がりや、セメントの取り残しのリスクがあるので注意が必要です。

装着直後
術後管理について
主にポンティック下部の清掃についてなんですけど、基本的にはスーパーフロスなどの使用は避けてもらっています。
これまでに出されている論文内ではスーパーフロスによる清掃が推奨されているんですが、ジルコニアフレームにおいてはこれは当てはまらないと考えています。
それはジルコニアは上皮性付着様の接着が起きている可能性があると言われているからです。
実際一年近くの経過を追ってみると組織のクリーピングが起こっています。
クリーピングが起こる前提として根面や、今回の場合だとジルコニアや陶材に長い付着上皮が形成されると言うのがあります。
今回の様なブリッジのケースで組織学的に付着の形成が認められたとする研究はありませんが、現状得られるエビデンスや、経験則から、ポンティック部の基底面には上皮性付着様の接着が起きている可能性は高いと思います。
そういった理由から、あえて付着を壊しにいく様な清掃は必要がないと考えます。
【今日の論文】Clinical study of the internal gaps of zirconia and metal frameworks for fixed partial dentures Fabian Wettsteinrらの著, Eur J Oral Sci 2008; 116: 272–279
いまだに一部の審美系の先生がメタルポーセレンを使用していて、なんでだろうと疑問に思っていたんですが、おそらくその理由はこの辺にあるのかと思います。
メタルとジルコニアのどっちが適合がいいかっていう話です。
この研究は25人の患者の32本の補綴、ジルコニア群と、MB群16本ずつがサンプルに含まれています。
ジルコニアコーピングの形成に有利とされるショルダーで支台歯の形成がなされています。
通法通りに補綴物を作成し、ビスケットの段階で内面調整を行い、フィットが得られた段階で内面にシリコンを流し、支台歯に手指で圧接。

Clinical study of the internal gaps of zirconia and metal frameworks for fixed partial dentures Fabian Wettsteinr et al, Eur J Oral Sci 2008; 116: 272–279より出典:この内面に色調の異なるシリコンを流し込んでいきます。
硬化後に補綴ごと取り外し、その内面に色調の異なる流動性の低いシリコンを流します。
その硬化後に二種類のシリコンで構成されているサンプルを除去し、エポキシ樹脂で埋めた上でカットし、そのギャップを測定していきます。
近遠心、頬舌側のそれぞれ歯頸部、中間、咬合面付近の12箇所と咬合面2箇所の計14箇所を測定しています。

Clinical study of the internal gaps of zirconia and metal frameworks for fixed partial dentures Fabian Wettsteinr et al, Eur J Oral Sci 2008; 116: 272–279より出典
一番の問題は歯頸部付近のギャップになると思うんですが、ここは優位さを持ってジルコニアの方の適合が悪く出ています。
このマージンギャップはどれくらいで問題になるかは、Sorensenの論文では50μmとしてるし、Björn ALの論文では200μm。と、かなりのばらつきがあります。
研究方法でかなりの違いが出てくるみたいなので、正確な数字は出ないと思うんですが、可及的に小さい方がいいことに異論はないと思います。
ミリングマシンやスキャナーの発達、シンタリング方法の改善などで解消される問題なのかもしれませんが、現状はこれくらいのギャップが存在することを認識し、その影響をいかに少なくするかを考えなくてはなりません。
それが先ほど扱ったセラミアや、スーパーボンドになると考えています。
術後一年の変化

左:装着直後 右:術後一年
装着直後のポンティック部よりも術後一年経過したほうが歯肉のボリュームが増えている様に見えます。
中切歯間の乳頭のボリュームも同様に増えている様に見えます。
適切な補綴のフィットと合着操作が行われた証拠だと考察します。
ポンティック部、マージンの変化など、今後も長期的に観察を続けなくてはなりませんが、現状、良好な治癒経過を辿っています。
機会があれば、今後も経過報告をしていきたいと思います。
Case①今回にて終了になります。ありがとうございました。
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