【おさえておきたい基本形態】上下の小臼歯形態
ダイレクトボンディング 、プロビジョナルレストレーション、インプラントの上部構造、etc...
日常臨床の中で正確な解剖学的特徴を認識しておかなくてはならない場面はたくさんあります。
下顎第一小臼歯と第二小臼歯の違いを正確に述べることはでき流でしょうか?
ということで3記事くらいに分けてその特徴を見ていこうと思います。
上顎大臼歯編はこちら
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【もう一度学ぼう】歯牙それぞれの解剖学的特徴:上顎大臼歯編
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下顎大臼歯編はこちら
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【もう一度学ぼう】歯牙それぞれの解剖学的特徴:下顎大臼歯編
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【上顎第一小臼歯の特徴】
全体的な形は卵形。左右対称形をしていますが、遠心頬側隅角が近心頬側隅角よりもやや突出して、鋭い角度を描いているのが特徴です。

上顎右側第一小臼歯の特徴
一般的な特徴
①主溝は近遠心的に一文字に走り、舌側と頬側を分けています。(緑線)
②頬舌側のそれぞれの中心隆線は咬合面の正中線上を一直線に走っています。(青色の範囲)
③近遠心ともに辺縁隆線と直交する横幅溝の存在があります。(黄色線)
④介在結節という小さい結節が近心辺縁隆線に認められることがあります。(紫色の範囲)
⑤咬合面の方から見ると、近心縁が頬舌的に圧縮されて折れ曲がっているかのような感じを与えることが多いです。
【上顎第一小臼歯】横からみたところ

図1:上顎右側第一小臼歯
頬側面から見た形は正五角形に近く、面の中央には咬頭の先端から真っ直ぐに走る高まりがあります。これを頬側面隆線(図1のB)と呼びます。
舌側面から見るとその高さも幅も頬側よりも著しく劣っており、また舌側咬頭は歯の真ん中より多少近心に偏っています。
舌側の最膨隆部は正中かやや遠心にあるので、ここからやや近心にある舌側咬頭頂を結ぶと、歯冠は近心にわずかに傾いたような形態に見えます。
隣接面観の輪郭はM形に近いですが、当然咬頭の大きさは頬側の方が大きいです。
隣接から見たときの、頬舌側の立ち上がりは、舌側が咬頭頂まで真っ直ぐに伸びているのに対して、頬側は歯頸部1/3で角度を変え、凸構造を作り咬頭まで伸びていきます。(図1,D)
また、近心隣接面にはその歯頸側半から歯頸を越えて歯根の一部まで圧痕があり、わずかなくぼみを作っています。(図1, M)
【上顎第二小臼歯の特徴】

図2:上顎右側第二小臼歯
上顎第二小臼歯は第一小臼歯と非常によく似ている形態を持っています。
以下は第二小臼歯に特有な特徴について見ていきます。
①平均的には第一小臼歯よりも第二小臼歯の方がサイズが小さい。
②一種の退化現象として、丸みを帯びており、外観が第一小臼歯よりもゴツゴツしていない。
③舌側咬頭と頬側咬頭の差が第一小臼歯の場合よりも小さい。
④歯冠を咬合面から見ると楕円形に近い
⑤辺縁隆線の発達が特に遠心で弱く、隣接面の高さが遠心側において近心側よりずっと劣っている。
ということで上顎の場合、第二小臼歯は、第一小臼歯と比較して、退化傾向が顕著であるみたいです。
【下顎第一小臼歯の特徴】
下顎第一小臼歯の最も大きな特徴は舌側咬頭の発達が悪いことです。これは犬歯化の影響のためと言われています。
単に犬歯の基底結節が少し発達した程度のものもあります。

図3:下顎右側第一小臼歯
一般的な特徴
①頬舌側の両咬頭は中心溝(主溝)で 境されていますが、この溝は咬合面の中央にはなく舌側に寄っています。(緑線)
②頬舌側の両咬頭が中央で接続しないため、上記のように中心溝は一文字にならず、多くの場合で頬側の隆線が舌側隆線の遠心側に流れるように両者が食い違っています。(青の範囲)
③上記の理由で遠心小窩は近心小窩よりもかなり舌側に位置することになります。(紫点)
④小窩からはそれぞれ副溝が出ており、頬舌側のそれぞれ隅角部に向けて伸びていきます。(黄色線)

図4:下顎右側第一小臼歯. 側方
【下顎第一小臼歯】横からみたところ
頬側面から観察すると、五角形の輪郭をしており、ほとんど対称形です。しかし上顎小臼歯におけるよりもその高さがやや優っており、幅は逆にわずかに劣ってます。(図4B)
歯冠を舌側面から観察すると、咬合面の全体を斜めに観察することができます。舌側咬頭の切縁の輪郭は非対称的で、咬頭の尖頭は多少近心側に偏っています。(図4L)
隣接面から観察すると頬側面は歯頸部のすぐ上で膨隆して、そこから歯軸方向に屈曲して咬頭頂までほとんど直線的に走ります。(図4M)
頬側咬頭はほとんど歯軸の直線状にある一方、舌側咬頭の位置は歯根の舌側面の延長線上に位置します。(図4D)
【下顎第二小臼歯の特徴】

図5:下顎右側第二小臼歯
一般的な特徴
類似度は上顎の両小臼歯ほど似ていません。
①最も典型的なのは舌側の半分が第一小臼歯よりも良く発達しているところです。このため咬合面は比較的大きく、下顎大臼歯に近似した外観になります。
②また舌側咬頭の発達も進んでいて、副咬頭が認められることもあります。(図5:紫)
③頬側咬頭自身の高さはむしろやや劣っているので、頬側の両切縁の作る角は第一小臼歯よりも鈍くなります。
④そんなことから頬舌両咬頭の間隔が遠ざかるとともに、その尖端を結ぶ線が水平に近くなって隣接面観の輪郭がかなりMに近づいていきます。
【下顎第二小臼歯】横からみたところ

図6:下顎右側第一小臼歯. 側方
隣接面の高さは第一小臼歯では近遠心の差は少ないのですが、第二小臼歯では近心面の方が遠心面より明らかに高いです。(図6 M, D:緑破線)
先ほど述べたとおり、側方から見たときの、頬舌側咬頭がなす角度は第一小臼歯のそれと比較して水平に近くなっています。
【まとめ】上下・第一・第二小臼歯それぞれの違い
①上顎小臼歯の歯冠は近遠心的に強く圧平されていて、その咬合面観(または水平断面)は長軸が頬舌方向に向けられた卵形または楕円形になります(縦長)が、下顎小臼歯の歯冠は扇形または角のとれた方形に近くて、むしろ近遠心径の方が優っています(横長)。
②上顎小臼歯では舌側咬頭がよく発達して、その形態、サイズ的にも、頬側咬頭に匹敵するくらいなので、歯冠を隣接面の方から眺めると、その輪郭はM形をしています。 これに反して下顎の小臼歯では舌側咬頭の発達が悪いし、またその形の上からいっても頬側咬頭と同じではなくて、副咬頭を備えていることがしばしばあります。上顎小臼歯に舌側副咬頭が出現することは決してありません。(図7)

図7:上下小臼歯の比較
③上顎小臼歯の裂溝はH型をしており、下顎の場合は多くの場合S状を示しています。
④歯を全体として隣接面の方から見ると、上顎小臼歯では頬側咬頭も舌側咬頭もまっすぐ下に向かって伸びているので、歯冠の中軸は歯根の長軸と一直線をなしていますが、下顎では頬側咬頭の尖端が著しく舌側に傾いているため、歯冠の中軸は歯根のそれとはある角度をなしています。(図7)
以上、上下小臼歯の特徴でした!
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。