昨今、セラミック矯正が話題になっています。
先日藤田ニコルさんがTwitter上でセラミック矯正を再度行なったとの投稿をしました。
それに対し
「セラミックの事で嫌な事言ってくる歯医者さんの引リツ多い」
とし、当該のツイートを削除するという流れに発展しました。
芸能人という特殊な職業の方が、セラミック矯正を選択されるのは十分に理解できます。
自分の生涯を鑑みてメリット、デメリットを考え、その上でメリットが上回ると思う方がやるべきだと思います。
そのような意味で今回の藤田ニコルさんの判断は尊重すべきと思っています。
一方で、影響力がある人物が、一般の方が勘違いしてしまうような拡散をするのはちょっとなーというのが正直なところです。
何が勘違いなのか。セラミック矯正のメリット、デメリットを詳しく見ていきましょう。
【本当に良いことなの?】セラミック矯正のメリットと言われていること。
セラミック矯正は気軽に審美的な歯並びを得られるという理由で、広く浸透していると思いますが、その裏には本当にさまざまなデメリットが存在しています。
まずは一般的に言われているセラミック矯正のメリットについて見ていきます。
【すぐに終わる】短期間できれいな歯並びを手に入れられる
セラミック矯正を選択される方の多くがこの理由によるものだと思います。
矯正治療はその多くが数年単位で治療をしていく必要がありますが、セラミック矯正の場合だと数ヶ月単位で治療を終了することができます。
さらに、最近ではマウスピース矯正も広く浸透してきていますが、ワイヤー矯正を審美的に避けたい方も多くいらっしゃるので、それを回避するという観点からもセラミック矯正は親和性が高いと思います。
この短期間できれいにというキャッチコピーが今すぐきれいになりたいと思う方々の需要にマッチしていますよね。
【比較的安価】矯正より治療費が安い
全体的な矯正治療となると100万円近い金額になることも少なくない矯正治療。
一方でセラミック矯正となると、多くの場合はそれ以下での治療が可能となります。
本数が増えると矯正治療と変わらない場合も考えられますが、治療期間のことも加味し、セラミック矯正を選択するのかと思います。
ここでもすぐに綺麗さを得たい患者さん心理をうまくついているなと感じます。
歯を動かすことによる痛みがない
矯正治療においては、歯の移動に伴う一時的な痛みが出ることが少なくありません。
激痛というよりかは、長期的に慢性的に続くことの多い矯正治療の痛み。
これを回避できるのもセラミック矯正の強みになると思います。
しかし、歯を動かすことの痛みはないですが、セラミック矯正をした後には矯正より大きな”痛み”を伴う可能性があります。
次にセラミック矯正のデメリットを見ていきましょう。
【ここから実例あり】いっぱいあるよ!セラミック矯正のデメリット
先ほどセラミック矯正のメリットを無理やりやりげてきましたが、当然デメリットの方が多いです。
どんなデメリットがあるのか詳しく見ていきます。
【病気じゃないのになんで削るの?】健康な歯を削ってしまう
健康な歯を審美目的のみで削るというのは非常に危険なことです。
前歯の場合、表面のエナメル質を削ることで歯の強度は著しく低下することがわかっています。
セラミック矯正の結果として、エナメル質はほぼなくなってしまうので、歯の強度は低下すると考えられます。
詳しくは以下に書いているので参考にして下さい。
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【歯根破折】根管治療をした歯は本当に弱いのか。
続きを見る
【枯れ木にような状態にはならないけど、、、】神経を取る可能性がある
歯を削る範囲が大きくなると、神経まで取らなくてはいけない状態になります。
経験上、セラミック矯正をされている患者さんの多くは神経の除去を行なっています。
例えばこんな症例。
青丸の右上の被せ物が取れたとの主訴で来院されました。
全体的な歯並びを見たときに右上だけ唇側に向いている感じがします。
少し専門的になりますが、下顎が全体的に左側にシフトし、右下の3が少し唇側に出ていることから、持続的な力が加わっていたことが考えられます。
歯肉の連続性を見ても右上の2番は元々内側に生えていたことが考えられます。
土台ごと外れてきたので歯の方を見てみると、
こんな感じで複雑に割れていました。
このようなことはセラミック矯正においてはよくある話で、本来の歯の生えている方向と異なる方向に見えるように被せ物を入れます。
以下の図では、左図が今回外れてきたものの写真と模式図です。
適切な治療の場合、右図のように被せ物と歯の生えている方向は基本的に一致します。
このように本来歯が持つ方向を無理矢理変更してしまうと、無理な応力がかかり、今回の症例のように歯根が割れてしまいます。
歯根が割れてしまうとその多くは抜歯となります。
さらに本来出っ歯の歯を引っ込めたり、引っ込んでいる歯を前に出したりするためには、神経を取らなくてはいけなくなります。

赤色の神経が歯を削ることで露出してしまうことを示した図。※支台歯形成:歯を削ること
上図のように歯の方向を本来のものから変更するために歯を削ることで神経が露出してしまいます。
神経をとり、歯を削ることで歯の寿命が短くなってしまうことは皆さんご存知のことかと思います。
次にさらにひどいケースを供覧します。
【健康な歯は抜かないでほしい】最悪の場合抜歯されちゃう
次に紹介する患者さんは30代の女性で、数年前に審美的な改善を目的にセラミック矯正をされたとのことでした。
その写真がこちら。
その部分のレントゲン写真を切り抜いたのがこちら。
なんと、前歯の4本が抜かれていて、前から三番目の糸切り歯を支台歯として、6本のつながったブリッジが装着されています。
患者さんにお聞きすると、元々出っ歯でガタガタの歯並びだったため、セラミック矯正をする上で抜かなくてはならないと言われ抜歯したとのこと。
このようなケースを見たのは初めてでしたが、意外とこういう治療が普通に行われているようです。このような治療は絶対に避けていただきたいです。
このように本来何も問題のない歯まで抜かれてしまうリスクがあります。
【問題はいれた後にも続く】再治療の困難性
先ほどの患者さんの不運はまだ続きます。
元々来院していただいた経緯は左上の糸切り歯のところに違和感がある。とのことでした。
口腔内に膿の出口ができていました。
ここから造影性のある材料を挿入してレントゲンを撮ってみると
側枝なのか外部吸収なのかわかりませんが、糸切り歯の側面に何か問題が起きていました。
先ほどのパノラマ写真でもそうですし、このレントゲン写真でもわかるように、根管治療も微妙、ファイバーの設置も微妙。
ということで、歯科医学的に考えると。全てのセラミックを外して再根管治療が基本かと思いますが、患者さんと相談したところ、
セラミックは外さないでほしい
とのことでしたので、外科的な対処に移行します。
①歯茎を開いたところ ②肉芽組織を掻爬、根管形成 ③MTAの充填 ④膜の設置 ⑤縫合 ⑥術後2年
レントゲンで見た位置に一致して、何かしらの感染?吸収?が起こっていることがわかります。。
あまり同業者の悪口を言いたくないのですが、こんなメチャクチャな治療計画で治療を進める人は、最も重要となる支台歯の根管治療も支台築造もメチャクチャです。
なんとかこの処置で長期的にもってくれるといいのですが、かなり注意深く経過観察を行なっていかないといけません。
【出っ歯を引っ込める方は要注意】歯肉退縮という問題
先述の通り、本来歯が持つ軸を無理矢理変更するとさまざまな問題が出てきます。
1症例目で出したのは引っ込んでいる歯を前に出したケースです。
これから紹介するのは出っ歯を引っ込めたケースになります。
右上前歯のところの歯茎が下がってしまって、被せ物と歯質の境目が見えてしまっています。
元々は当然その境目まで歯肉があったわけです。
この部分のCTを見てみると、
先ほどと同様、本来の歯の方向とは異なる方向に被せ物が装着されています。
詳細は省きますが、このように元々出っ歯の歯を内側に引っ込めようとすると、このような歯肉退縮が起こりやすくなります。
人は誰でも生理的に歯肉退縮を起こしていくものですが、装着から2年でここまで歯肉が下がってしまったようです。
他の歯の歯肉退縮が起こっていないことを考えると、セラミック矯正によってこのような事態が起こってしまったことが考えられます。
【まとめ】セラミック矯正を行う人は長期的な目線で判断をしよう。
ということでここまでセラミック矯正のメリットとデメリットを見ていきました。
自分の患者さんには行ったことのない症例ですし、患者さんから希望されても長期的な予後の観点から、実際に行うことはないと思います。
芸能人のような特殊な方はある種仕方ないとして、一般の方には長期的な視点を持って、本当に必要な処置なのか判断してもらいたいものです。
セラミック矯正を行なっているところは、マーケティングが非常に巧みで導入のハードルをものすごく低く設定しているので、安易に行う人が後を絶ちません。
国民生活センターにもこの手のトラブルが紹介されています。
一見メリットが多く思えるセラミック矯正ですが、デメリットもきちんと理解してその判断をするようにしてください。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。