※一部掲載の写真は宮川順充先生のインスタグラムより引用し、許可を得ています。
全2回の1回/2回
岩手の花巻に戻ってきて早1年が経とうとしてます。
大谷くんで有名な花巻東高校サッカー部の監督がヴェルディの元選手であったり、柱谷哲二さんがアドバイザーやってたり、ヴェルディ本部のスクールコーチをやってた千田雅也さんが富士大学を東北勢初の総理大臣杯優勝に導いたり、花巻のサッカーはヴェルディ無しには語れません。
そんな環境にいる元ヴェルディユース歯科医師の僕としては何かしら日本、岩手、花巻のサッカーに貢献したいという思いをずっと持っているのです。
そこで度々メディアに登場しているドイツのシュツットガルトで矯正歯科医をされている宮川順充先生にコンタクトをとらせてもらったところ
”日本で講演会やるからおいでー”
と言って頂き、先日行われた講演に参加してきました。
ちなみに今回の主催である歯科メーカーのヨシダは、同姓である吉田麻也とのつながりで、遠藤航、宮川先生との関係ができて、今日の開催に至ったらしいです。
学術的な話は第二回にするとして、今回は宮川先生と先生から見た遠藤航という人間についてです。
【自分の持っている力をいかに発揮させられるか】プロ選手のパフォーマンスに対する欲求

右:モンテディオ山形時代の林陵平選手。僕だけデザートを食べている
まずお二人の話に入る前に、、、限られた選手生命の中で、かつ毎年毎年いつ雇用主からクビを宣告されるかわからないプロ選手。
体が資本なのは言わずもがな。
怪我などで再起不能になったり、元のパフォーマンスを出せなくなった選手を挙げたら、枚挙にいとまがありません。無事是名馬とはよく言ったものです。
僕が歯医者になって2年目に山形市で勤務していた時、ヴェルディユースの先輩で、現在日本一忙しい解説者としてお馴染みの林陵平選手(当時モンテディオ山形所属)と食事に行く機会がありました。
その時に印象的だったのが
大学入ってプロになれると思っていたけど、全然パフォーマンスが上がらなくなって、このままではヤバいって状況になった。何かを変えなきゃと思って、一から栄養学を学んで、食事を全て変更した。
他にも睡眠や、時間管理など全てのことを見直し、パフォーマンスも向上、晴れてヴェルディのトップチーム入団が叶ったというお話。
当然そのご一緒した際も一切のアルコールは取らず、コース最後のデザートもその日の栄養管理の観点から食べられない。となり、僕が頂きました。
プロの輝かしい世界の裏側で、どんなに小さな努力でも、それをどれだけ積み重ねられるかがプロ選手には問われているのだと感じたのです。
前置きが長くなりましたが、宮川先生ご自身と、宮川先生の講演に出てくる遠藤航選手の話にもやはり共通点があり、大変に感銘を受けたので、宮川先生に迷惑がかからない程度に紹介させて頂きます。
【2人の出会い】宮川順充先生と遠藤航
宮川先生は10年以上前からシュツットガルトで矯正医をされており、遠藤航選手がベルギーのシントトロイデンからローンでVfbシュツットガルトに来たタイミングで関わりができたそうです。
(※Vfbシュツットガルトには、現在原口元気選手、伊藤洋樹選手、セカンドチームにチェイスアンリ選手も在籍しており、原口選手の矯正をされたり、アンリ選手のマウスガードを作成するなど公私にわたって非常に仲良くされていました。)
最初は遠藤選手の歯列矯正からスタートし、担当医としての蜜月関係が育まれていきます。
ちなみに宮川先生ご自身はサッカーに全く興味がなく、オフサイドは一年前、スローインを片手で投げてはだめということを半年前に知ったというレベル。
しかしながら頭の中にはマウスガードに関する独自の考えをお持ちだったようで、矯正治療をスタートした時点で、マウスガードを提案しようと画策していたようです。
矯正終了後すぐに最初の試作品を使用してもらい、試合ごとに改良を重ね、今では累計100個に届きそうな製作数のマウスガードですが、最初から柔らかいゴム製のものではなく、硬い(変形の少ない)タイプだったようです。(この話は次回。)
宮川先生ご自身は咬合や顎関節、顎位の領域にご関心があり、その視座からマウスガードに求められる要件とは何かということを突き詰めた結果、今の形が出来上がってきたのかと思います。
そのため、今現在一般的に使われているマウスガードとは概念が全く異なるのですが、アスリートの保護とパフォーマンスの観点からすると非常に理にかなっていると感じました。
【客観的で、凝り性で、ちょっと鈍感で】宮川先生から見た遠藤航とは

後半アディショナルタイムの自身のゴールで残留を決め、サポーターからLEGENDOとENDOをかけた粋なメッセージが届いた
遠藤航選手はシュツットガルトを奇跡の残留に導き、またブンデスリーガのデュエルキングの名をほしいままにし、世界屈指の名門リヴァプールに引き抜かれます。
移籍当初は疑問視されていたこの移籍も遠藤航選手が見事な適応を見せ、世界一プレー強度が激しいリーグの、最もプレッシング強度の高いこのチームで堂々のレギュラーを張っています。
日本ではサッカーに関する報道が少ないせいか、なかなか理解している人が少ないと思いますが、これは本当にすごいことで、間違いなく日本歴代最高のボランチでしょう。
このサクセスストーリーを5年以上にわたって共に歩んできた宮川先生に遠藤航はどう見えているのか。
【論理的で、客観的で、凝り性だから生まれたマウスピース】0.1%でもパフォーマンスを向上させるために
以下宮川先生の言葉です。
論理的に考えて、自分ができること、できないことを分けて、できないことは捨てる。できることは最大限努力する。そして次にそのフィードバックというその結果が出たら、それに対して分析して、またできることとできないことを分けて、そして行動していく。
このように自分を客観的に捉え、やれることをとことん突き詰めていく性格であり、
ただサッカーが上手になるっていうんじゃなくて、自分に足りないものはこれ、そしたらそれに向かってどういう手段があるのか。方法①、方法②、方法③・・・それを全部やってくる。でもこれは時間的余裕がないんですよ。この中で順序立ててやるんですけど、マウスガードも実はそれの一環なんです。
例えば1%でも0.1%でも自分のパフォーマンスにプラスの影響を及ぼすものであればやる。それが何で今こうやって何十個も(マウスガードを作ってやってる)って感じになった要因なんですけども、彼の性格ですよね。
冒頭の林選手と同様、多くのプロ選手は自分の価値や可能性を最大化するために、ありとあらゆる努力をしているのを改めて実感しました。
僕ら歯科医師もこうあらねばなりませんよね。
でもそもそもは宮川先生が顎位とパフォーマンスの関係にみる可能性であったりとか、遠藤選手にもわかりやすいように噛み砕いて熱弁していたんだと思う。
【鈍感であるからブレずに続けられる】叩かれても気にしない。
当然失敗したらもうものすごい叩かれるじゃないですか。でも彼はあんまり気にしないんです。そういう繰り返しをただひたすらに、愚直に続けているんです。
自分なりに”これだ”と突き詰めていっても、客観的な結果が出たり、周囲の評価がないと自分のやっていることが正しいのかどうか。疑心暗鬼になることもあると思うんです。
それでも自分の信じた道を継続して進み続ける。そこには宮川先生の手厚いサポートと、選手の感覚を言語化する能力と、技術がありました。
【遠藤航の担当医としての矜持】選手ファースト。自分のエゴは捨てる。
選手からもらった意見は絶対に尊重する。そういった中で、少しでも本当にわずかでもフィードバックもらったものを生かそうっていうふうにして今までやってきた。
競技者のそういう健康ですとか、選手寿命でしょうか、そういうのを増やすことになりますので、私達がドグマティックに何か物を作ってそれが結局、使っていただく人たちに使いたくないと思わせるようなものだと、やっぱ本末転倒だと思うんですね。
試合後の、遠藤選手から出てくる要望。その多くは感覚的なものが多く、具体性に欠くことが多かったみたいです。
それを自分なりに解釈、言語化し、次のマウスガードへ反映し、また要望を受け、、、
こんな作業を繰り返し、試作に試作を重ねていった結果、冒頭のように100を超えるマウスガードが生まれ、いまだにその進化は止まりません。
【まとめ】
宮川先生の作成するマウスガードはこれまでにない概念から生まれており、それゆえにエビデンスの蓄積であるとか、そう言ったものはかなり限定的です。
だからこそ選手との対話を大事にし、その感覚を尊重し、次のマウスガードに落とし込んでいるのだと思います。
今後同様の考え方が浸透していき、パフォーマンスの向上や外傷予防などの改善が研究として認められることを願っています。
微力ながらその発展に岩手の花巻から尽力していければと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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第2回では学術的なところで、これまでのマウスガードとは何が違うのか、見ていきます。