【TraditionalかModernか】2種類の歯根端切除
抜髄、感染根管処置と、Orthogradeでの治療が奏功しなかった場合に行き着くのが歯根端切除になります。
抜髄、感染根管処置の成功率は以下の記事を参考にしてください。
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【根管治療の成功率は?】Initial treatment:抜髄の成功率
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【感染根管治療の成功率は?】Retreatment:感染根管治療の成功率
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続きものの論文なのですが、今回は2つの論文からその成功率を見て行きます。
前者はマイクロスコープの併用を含む、術式による違いでその成功率の違いを見ています。
後者はマイクロの使用の有無のみで、成功率の違いを見ています。
最初の論文はこちらです。
Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature--part 1: Comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery Frank C Setzer , Sweta B Shah, Meetu R Kohli, Bekir Karabucak, Syngcuk Kim,J Endod . 2010 Nov;36(11):1757-65.
Frank C. Setzerっていうペンシルベニア大の先生が2010年に出した論文です。
1966年から2009年の間に出された、最低6ヶ月の経過をまとめた論文をレビューしています。
traditional root-end surgery (TRS) と、endodontic microsurgery (EMS:いわゆるモダンテクニック)の二群で成績の比較をしています。
長くなりそうなので、結果から先に言うと成功率は
TRS:59%, EMS:94%
という結果になりました。
TRSとEMSの違いは?
かなりの成功率の差が出ましたが、2つの群間にはどんな違いがあるんでしょうか。
①拡大装置の有無
TRSはマイクロやルーペなどの拡大装置を使用していません。EMSはマイクロスコープやエンドスコープ(?)などの拡大装置を使用しています。
②形成器具
TRSは回転切削器具を使って切除しています。EMSは超音波器具を使用しています。これを用いる事で逆根管形成をすることができるようになり、根管内細菌の大幅な減少につながっていることが考えられます。
③逆根管充填剤
TRSは今は使われなくなったアマルガムを用いて逆根管充填を行なっています。一方EMSは比較的生体適合性の高いMTAなどが用いられています。
④その他
TRS/EMSの順で挙げていくと、骨切除のサイズが大きい/小さい、普通サイズの器具/マイクロ用の器具、ベベルの角度が鋭角/浅角、処理方向がオフアングル/アライメントなどが違いとしてありました。
この論文の最後には
EMSの成功確率は、TRSの成功確率よりも有意に高いことがわかった。この結果は、根尖部手術の進化を示すものであり、拡大・可視化の強化を含む現代の技術で何ができるかを示している。
Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature--part 1: Comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery Frank C Setzer , Sweta B Shah, Meetu R Kohli, Bekir Karabucak, Syngcuk Kim,J Endod . 2010 Nov;36(11):1757-65.より引用
として、術式による成功率の違いを言及しています。
【大臼歯部はマイクロがあった方がいい】Part2の論文の結果
今度はこちらの論文
Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature--Part 2: Comparison of endodontic microsurgical techniques with and without the use of higher magnification Frank C Setzer, Meetu R Kohli, Sweta B Shah, Bekir Karabucak, Syngcuk Kim,J Endod . 2012 Jan;38(1):1-10.
前半のやつのパート2という事で、同じ著者らが書いています。
今度は両群ともにモダンテクニックでやって、マイクロスコープの有 or 無で成績を比較しています。
マイクロスコープなしの群= CRS:contemporary root-end surgery
マイクロスコープありの群= EMS:endodontic microsurgery

Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature--Part 2: Comparison of endodontic microsurgical techniques with and without the use of higher magnification Frank C Setzer, Meetu R Kohli, Sweta B Shah, Bekir Karabucak, Syngcuk Kim,J Endod . 2012 Jan;38(1):1-10. より作図
結果は上図のようになり、全ての歯種で90%を超える高い成功率を記録しています。
意外なことに大臼歯以外はマイクロスコープを使っても使わなくても結果は有意差無しとなりました。
この結果は臨床実感とかなり異なるので、僕自身もかなり驚いたんですが、このことは他の論文でも言われてるみたいですね。
Tsesisらの論文でもモダンテクニックを用いて、根切の成功率を見ていますが、拡大装置の有無で結果に影響はなかった。としてるし、
Del Fabbroらの論文でも同様のことが言及されています。
ただし、大規模なランダム化比較試験が行われていないので、拡大装置が必要でないと結論づけるのは時期尚早であるとも述べられています。
【歯根端切除は必須の技術】多くの歯を救う事ができる
2つの論文を中心に見て行きました。
方法によって成功率に差はありましたが、モダンテクニックの歯根端切除はかなり高い成功率であることがわかります。
見出しの通り、歯根端切除術をできるというのは、GPにとっても必須の条件であると思っています。
というのもペンエンドの石井先生が確かこんなことを言っていて、なるほどなと思ったからです。
理論上の話になりますけど、今回出させてもらった成功率を元に計算をすると上図のようになります。
再根管治療で100本の歯の治療が必要になった場合、60本が治癒に至らず、歯根端切除の適応になった場合でも57本は治癒に導くことができ、全体で見ると97%の成功率となります。
再根管治療が必要な歯が100本あったとしても、理論上97本は救える可能性があるのです。
ここで歯根端切除という武器を持っていない場合、60本は治癒へと導いてあげる事ができないのです。最悪の場合は抜歯です。
ここまでうまい話にはならない気もしますが、そういった観点から、歯根端切除は必須のスキルと考えています。
今日では材料、インスツルメントの改良もあるので、今回扱った記事よりも高い成功率になる可能性もあります。
3回にわたり連続で根管治療についてまとめましたが、歯の保存のために根管治療は避けて通れません。
患者さんへの術前説明など、情報提供の一助になればと思います。
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。
根管治療を受ける際の歯医者さんの選び方も参考にしてください。
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【歯科医が選ぶ良い歯科医院の見分け方】:根管治療編
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