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【歯茎が下がってきた!】歯肉退縮とは。
上図のように歯肉が下がり歯根の部分が見えてくることを歯肉退縮といいます。
厳密には
セメントエナメル接合部から根尖側への軟組織縁の変位
American Academy of Periodontology. Consensus report on mucogingival therapy. Proceedings of the World Work- shop in Periodontics. Ann Periodontol 1996: 1: 702–706.
と定義されています。
これは特に珍しい病態ではなく、一般的に見られる臨床症状です。
例えばLoeらによるノルウェーとスリランカの2つのコホート(15~50歳)における歯肉退縮の有病率を調べた縦断的研究では
ノルウェー人の歯肉退縮の有病率は20歳の時点で60%であり、退縮はほとんどが頬側表面に位置しており、50歳では90%を超えている
Loe H, Anerud A, Boysen H. The natural history of peri- odontal disease in man: prevalence, severity, and extent of gingival recession. J Periodontol 1992: 63: 489–495.
という結果になっているし、
スイスのRöthlisberger先生らの研究では
18歳から24歳のスイス軍隊の新兵626名のコホートにおいて、犬歯の8.7%と上顎第一大臼歯の17.4%に1mm以上の頬側の退縮が認められた。
Röthlisberger B, Kuonen P, Salvi GE, et al. Periodontal conditions in Swiss army recruits: A comparative study between the years 1985, 1996, and 2006. J Clin Periodontol 2007;34:860–866.
となっています。
よって年配の方だけでなく、若年者でも好発するものだし、広い年齢層で高確率で発症する病態であることがわかります。
【歯肉退縮の病因】なんで歯肉退縮が起こるのか?

イラストで見る 天然歯のための審美形成外科, Giovanni Zucchell著クインテッセンス出版, 2014より作図
病因についてははっきりしていないことも多いんですが、一般的に大きな原因として考えられているのはブラッシングです。
これに対し、宿主要因として上図のようなものが組み合わさると、より容易に進行することが考えられます。
どの原因や要因がどのくらいの割合で歯肉退縮の発症に関与しているかは現在のところ不明ですが、さらなる進行を防ぐ、根面被覆後の再発を防ぐ意味でもこの病因をしっかり理解しておくことは重要かと思われます。
多くの場合、歯肉退縮の始まりは不適切なブラッシングによるもので、続いて生じる根面の知覚過敏や歯肉辺縁の不連続性(隣在歯間の歯肉の高さの不揃い)は、患者の口腔清掃状態に影響する。
イラストで見る 天然歯のための審美形成外科, Giovanni Zucchell著 クインテッセンス出版, 2014
【そのままにしてたら危ない?】歯肉退縮を放置したらどうなる?
2016年に発表されたChambronらのシステマティックレビューでは未治療の歯肉退縮の予後を評価しています。
ベースライン時に歯肉退縮があった部位の78.1%が2年間の追跡調査期間中に退縮の悪化を経験し、79.3%の患者で退縮の数の増加を示したことが明らかになった。
Chambrone L, Tatakis DN. Long-term outcomes of untreated buccal gingival recessions: a systematic review and meta-analysis. J Periodontol 2016: 87: 796–808.
という結果になっており、未治療の歯肉退縮は、たとえ口腔衛生が良好であったとしても、さらに進行する可能性が高いことが示唆されています。
それを支持する、口腔衛生状態が良くても歯肉退縮が進行する可能性があることを示唆している研究もあります。
この研究ではプラークコントロールに優れる歯学部生を対象にした研究です。
85%の歯学部生に歯肉退縮を確認し、10年後に同じグループを再調査したところ、プラークコントロールに優れているにもかかわらず、一人当たりの歯肉退縮部位の平均数と平均退縮高さが有意に増加していることがわかった。
MatasF,SentısJ,MendietaC.Ten-yearlongitudinalstudy of gingival recession in dentists. J Clin Periodontol 2011: 38: 1091–1098.
歯肉退縮の分類では、かつてのMillerの分類、現在使われているCairoの分類があります。
当然ステージが上がれば上がる(症状が進めば進むほど)ほど、元の状態に近づけることは難しくなります。
歯肉退縮が原因で抜歯に至ると言うことはないようですが、放置を続け、取り返しのつかない状態まで進行させるより、早めの介入が必要になるということが言えそうです。
【失った歯肉は歯肉は取り戻せる】
冒頭の歯肉退縮の症例に対し、以下はまだ治療途中なのですが、根面被覆を行いました。

術前

術後
右上の1は歯根破折を起こしていますので、ポンティクシールドを行い、前歯部の補綴修復を行なっていく予定です。(その経過は今後報告していきます)
根面被覆に結合組織も併用していますので、歯肉のフェノタイプの改善もでき、今後の歯肉辺縁の安定に寄与してくれると思います。
このように、現在では治療法も確立され、状態によっては確定的に歯肉退縮の改善を行うことができます。
【最後に】ブラッシングに気をつけよう!!
前述の通り、歯肉退縮の原因の一つにブラッシングがあります。
根面被覆を行った場合、それを長期的に安定させるためにはブラッシングの改善が必須になります。
また、それは術前の段階で完璧にしておくべきです。
なぜなら、ブラッシングの方法を改善するのみで歯肉が元の位置まで回復してくる可能性もあるからです。
それでも改善が見込めない場合に外科処置を行うと良いでしょう。
おしまい。今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。