注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
なお、全ての臨床写真は患者様の掲載許可をいただいた上で掲載を行なっております。
✔︎ 本記事の信頼性
【論文から読み解くインプラントの長期予後】
患者さんとインプラントについての話をする時に、よくされる質問があります。
インプラントってどれくらいもつんですか?
現状わかっている範囲のことを伝えしたいと思います。
厚生労働省が平成26年に出している”歯科インプラント治療のための Q&A”というのもあるので気になる方はご覧になってください。
この指針にも組み込まれている論文なのですが、今回はチューリッヒ大学の Ronald E Jung先生らが2008年に出している、以下の論文の続報です。
【今日の論文】A systematic review of the 5-year survival and complication rates of implant-supported single crowns Ronald E Jung , Bjarni E Pjetursson, Roland Glauser, Anja Zembic, Marcel Zwahlen, Niklaus P Lang Clin Oral Implants Res . 2008 Feb;19(2):119-30.
上の論文は1966年から2006年の間に書かれた論文をレビューしています。
今回参考にする論文はその結果にさらに2006年から2011年の間に出された論文の結果を追加して、インプラントの予後を見ています。
1083本の論文から様々な除外基準をクリアした46本がその評価に組み込まれています。
【95%を超える生存率!】インプラントの5年/10年予後
分析には13歳から94歳の患者に埋入された単独の3223本のインプラントが含まれ、そのうちの104本が喪失という結果になりました。
(荷重前(上物が入る前のこと))に41本のインプラントが喪失。これは全体の1.3%になりました。荷重後に喪失したのが49本で1.5%の割合でした。)
5年経過を見た論文では生存率は90.5%~100%であり、一年当たり、100本中0~2本喪失するという計算になるみたいです。
10年経過を見た論文群においてもほぼ同じような結果です。
これらを総合すると、
5年生存率は97.2%
10年生存率は95.2%
というかなり良い結果になっています。
しかし、インプラントは口の中に残っているんだけど、何かしらの問題を抱えているという場合があります。
以下にそういった合併症の発生率を見ていきます。
【インプラント周囲に起こる合併症】生物学的結果
ここには炎症の兆候、粘膜の炎症、粘膜炎、出血、化膿、軟組織の喪失など、あらゆる種類の軟組織の合併症が含まれています。
いわゆるインプラント周囲粘膜炎や、インプラント周囲炎とかがここに含まれます。
これらの事項の5年間での発症率は7.1%でした。
さらに最も問題となるインプラント周囲の骨喪失が2mmより多く認められたものは5年間で5.2%となりました。
(骨喪失に関しては、わずかにスクリューリテインの方が成績がよかったです。有意差は無し。)
【見た目の問題】審美的結果
軟組織の退縮や、歯肉の好ましくない色調、クラウンマージンの露出など、インプラントの審美的外観が損なわれている割合を見ています。
これも生物学的結果と同じ5年経過で7.1%の発症率となりました。
【それ以外の合併症】技術的要因に含まれるもの
上記以外の合併症がここに含まれています。
その中で一番多かったのがアバットメント(歯の部分)の脱離と、ネジの緩みでした。
発症率は5年間で8.8%となりました。
次に多いのが、アバットメントの破折や、セメント脱離でした。
これが5年間で4.1%の発症率となりました。
ここにあげているアバットメントなどの問題は他の合併症と比較して容易に修正が可能です。
【10年は安心。多分大丈夫だけど、それ以降はまだ不明】この記事のまとめ
以上の結果から、インプラントは非常に生存率の高い治療法であるということが言えると思います。
しかし、10年を超えるような経過を追った論文は未だ少ないので、10年以上の生存率は確証を持って述べることはできません。
また、単独欠損の結果なので、複数歯の連結、ブリッジなどの場合に同様の結果になるかはこの論文からは不明です。
幸いなことに、年次失敗率は低いので、10年経過後からいきなり成績が悪くなる。ということもないとは思いますが、だからと言って
安易にインプラントを選択するということは避けた方がいいでしょう。
インプラントは天然歯に勝るものではありません。
さらにこの論文の中で言及されていることの一つに
新しいインプラントは生存率が高い
ということがあります。
このレビューに含まれる論文のうち発行年が最も古いものが、最も成績が悪く、5年で10%のインプラント喪失。というものだったのですが、この論文は1998年に出されたものでした。
新しいインプラントほど成績が良くなるという傾向も認められています。
医療は発達しているということですね!!
数多くの研究のもとに、インプラント自体の性能、特性は改良が重ねられているし、インプラントに関わる技術や材料も進化しているため、今後もインプラントの生存率は伸びていく可能性が高く、生存率なども上がっていくことと思われます。
そういった観点からもインプラントはできるだけ人生の後半に持ってくることで再介入のリスクを回避できるということにもなります。
【予防が大事】インプラントの時期をいかに遅らせることができるか。
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ただし、現時点でも高い成功率であることも事実なので、必要とされる場合に、きちんとおすすめできる治療法の一つとなります。
様々なサイトでインプラントの危険性などが取り立たされていますが、きちんとした治療計画のもと、技術のしっかりした先生が行うインプラントは予知性が非常に高いです。
信頼できる先生のもとで適切な治療を受けるようにしてください。
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。