注意
このブログの内容は客観的事実に基づき執筆しておりますが、特定の医療行為、手技、手法を推奨するものではありません。
残念ながら医療行為に100%の成功はあり得ません。時に患者様の不利益に繋がることもあります。しかしその可能性を極力低くするための努力はできます。
論文などからの知識のアップデート、長期経過からのフィードバックを得て、患者利益の最大化に努めるべきです。その一助としてこのサイトを活用していただければと思います。
なお、全ての臨床写真は患者様の掲載許可をいただいた上で掲載を行なっております。
✔︎ 本記事の信頼性
【大規模:トロント調査】initial treatment(抜髄)の成功率
日常診療の中で頻繁に行う根管治療ですが、一般的にその予後がどの様なものかご存知でしょうか。
その予後を見ていく際にはInitial-treatment(抜髄)とRetreatment(感染根管治療)の二つに分けて考える必要があります。
Retreatment:感染根管処置はこちらから
【感染根管治療の成功率は?】Retreatment:感染根管治療の成功率
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【最後の砦】歯根端切除の成功率【外科的歯内療法】
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今回はInitial treatment:抜髄編です。
またどこかで挙げますが、参照にするデータは全て海外論文です。日本の実態はこれよりもかなり低いと思います。
臨床実感としてはかなり再治療が多いですし、医原性の再治療が疑われる症例も割と多いので、今回の結果は日本の現状を反映しているとは思いませんが、しっかりやれば、これくらいは達成できるという目で見ていただけるといいかと思います。
【今日の論文】Treatment outcome in endodontics: the Toronto study--phase 4: initial treatment Cristian de Chevigny , Thuan T Dao, Bettina R Basrani, Vincent Marquis, Mahsa Farzaneh, Sarah Abitbol, Shimon FriedmanJ.Endod 2008 Mar;34(3):258-63
この投稿はこの論文を参考に見て行きます。
トロント調査と名付けられたこの大規模研究は2000年の1月から2001年の12月までの2年間で集められた患者さんを4〜6年間追跡調査しています。
当初1952本の調査だったものが、537本が中止、829本が脱落し、計586本が調査に含まれました。
結果は以下の表の通り。
この論文では全体の成功率は86%となりました。
ちなみにこの治療は全てマイクロスコープで治療されています。
他の論文でも報告されている様に、Initial treatmentの成功率は約90%です。
【根尖病変を確認しよう】術前の段階で成功率が変わる
この論文においては他にも治療の成績に影響をあたえる因子が挙げられています。
それが術前のレントゲン診査での根尖病変の有無です。
上図のように病変が認められない場合には93%の成功率。病変がある場合には82%まで下がっており、この数字には優位差が認められました。
このように病変の有無によって成功率が変化するとする論文は他にも有り、以下の論文では病変がない場合の成功率:96%と病変がある場合の成功率:86%というような類似した結果になっています。
【考察】なぜ病変があると成功率が下がるのか
これは考えてみると当たり前ですよね。
根管治療の目的は”根管内の可及的な無菌化”です。
根尖部透過像がない場合、根管深部の歯髄の一部は生きている可能性があります。
または、歯髄が死んでいたとしても細菌感染は比較的少ないということが考えられます。
一方、根尖病変がある場合、根管内全てに細菌感染が及んでいるということになります。また一部の論文においては根尖孔外感染が生じているともされています。
当然、無菌化を達成するのは、より困難になるということが言えると思います。
【まとめ】術前のデンタル写真は根尖まで写そう
術前のレントゲン写真の段階である程度の成功率を患者さんに伝えてあげることは重要かと思います。
もちろん骨の厚みや病変の大きさの関係で、その映り方には個体差が出てくるのは避けられませんが。。。
最低条件として、デンタル写真は必ず根尖部まで写すようにしましょう。
次回は感染根管の成功率を見て行きます。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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